2016年3月3日木曜日

ブログを始める

人もすなる舞路愚といふものを自分もしてみむとて――
「イタロ」名義でブログを始める。匿名を通すつもりはない。自分の素性はこの場ですぐ知れるのだから。でも、仮名を立ててみると、自分が見えないところにいて、舞台のイタロを演じさせている気になってくる。ひょっとして、見える舞台と見えない舞台裏との間(あわい)が現実世界の澱を濾過してくれるのではないか。その結果、「わたし」を影絵のように実体のない軽い何かに仕立ててくれたら、と思う。

このブログは過去の自分の棚卸しということになる。その程度のものだ。新しい情報を発信するどころではない。トピックの大半は古い抽斗から取り出したものだ。だが、過去は人の背後に迫って不意打ちをくらわせることがある。そこには驚きの種が蒔かれているだろう。
いちばん多い項目は翻訳に関するものとなるはずだ。

昨年の秋、デンマークのジャーナリストからインタビューを受けた。デンマークの若手小説家ヘレ・ヘレの小説『犬に堕ちても』(筑摩書房 2014)を翻訳した者として。質問・応答の大半は彼女の来日前、メールのやりとりで済ませてあった。

こんな質問も。


「翻訳していてどんなところに一番やりがいを感じましたか?」
わたしの答。
「困ったことに、わたしはべつだんやりがいを感じるようなことはありませんでした。ただ、作品を翻訳する過程ではいつもそうですが、意外な事実を発見したり、奇想にいざなわれたりするのです。こういう独特の境地を味わえるのは、ちょっとした特権かもしれません――地味くさい翻訳者にとって」

どうやらわたしは、優等生的な答えが求められる場で、期待に応える発言ができないらしい。



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