承前。
フルートゥルのその後について、うんとはしょった形でつたえておくと、臣下の身分とはいえ異国にいるうちに郷愁の気持ちがつのり、結局、ノルウェー王に暇を願い出る。先代の后はこの若い情夫との別れにさいして呪いをかける。「アイスランドに戻っても、そなたは思いを寄せる女と睦み合うことはないだろう」。
果たせるかな、この男、アイスランドで約束どおり有力者の娘と結婚するのだが、しばらくすると妻の側から離婚を言い渡される。妻が自分の父親に打ち明けるには、夫の下半身に問題があるとのことだった。これを決め手として、父親は全島民会の場で、娘とフルートゥルとの離婚を宣言する。
この「下半身問題」に話題を持っていくつもりだったのだが、そもそも「あらすじ」をたどるということを物語が拒否しているように思えて、先へ進むあたわずの状態に陥ってしまった。主要な筋に、傍系の筋がからみつき、しかも、その枝葉のごとき話が、のちに語られる一族間の不和につながっていくのだ。そんなわけで、何とも中途半端な終え方ではあるが、今のところはこれにて。
saga(サガ)とは語られたもの。単なる話であり、物語や伝説であり、過去の歴史もサガと呼ばれる。
古代に書かれたおびただしい「アイスランド・サガ」には、王をめぐる史話もあれば、キリスト教者の列伝もあり、伝奇的な説話もありといったふうだが、質、量ともにまさっているのが「アイスランド人のサガ」というジャンルで、アイスランドに実在した個人の長い一族物語で、リアリスティックな語り口のノンフィクションと見せかけながら、実は語りを楽しむためのフィクションだとも言える。逸話のように短い物語は þáttur (サットゥル--撚り糸)と呼ばれる。その細くて短い撚り糸を、縄を綯うように、何本も撚り合わせ、引き締まった一本の長い索に仕立て上げられたところに、ひとつの長編サガが立ち上がる。
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