2016年4月11日月曜日

「アイスランド・サガ」へと続く

映画『最後の一本』からどのように続けていくか、という筋立ては最初にできていた。これから「アイスランド・サガ」を引き合いに出すことになる。だから、少し古代文学の香りくらいは撒いておきたい。

「死後の名声」は国家や権威から与えられるものでは、むろん、ない。
古代アイスランドのカノンが繰り広げられる箴言集『ハウヴァマウル』は、テキストの韻文がアイスランドに残されたおかげで、「死なないもの、ただひとつ、死後の名声」といった世知が伝承されている。だが、それはもともとノルウェー西部の豪農たちが一族郎党プラス家畜を引き連れてアイスランドに移住するさい、胸のうちにたずさえてきた思考態度だ。
ノルウェー国の統一を果たした王に服従するなど真っ平御免という独立農民たちが、自由を求めて北海に浮かぶ島に渡ってきたのが、アイスランドという国の興りだった。

その新天地には、さいわいアメリカ大陸のように先住民が住んでいたわけではないので、残虐な殺戮はなかった。だが、原生していた樹木は伐りつくして、その後再生することはなかった。数少ない野生動物については、保護などという考え方がなかったため絶滅したものもある。ペンギンの一種 geirfugl (オオウミガラス 学名Pinguinus impennis )がそうだ。

一方、「アイスランド・サガ」という散文は、アイスランドに移住した人々の子孫によって羊皮紙に書かれ、数多く残された。その代表的な題材は「アイスランド人のサガ」、つまり、実在した人物の断片的な伝承譚の数々を、語り手がひとつの長編物語にまとめたもので、登場人物の姿に「逝きし世の面影」が刻みつけられている。『誰それのサガ』といえば、タイトルに冠された人物の一代記であると同時に、その時代の人物群像の絵巻でもある。

ようやく具体的な物語のなかに足を踏み入れる。よりによっていちばん有名な『ニャウルのサガ』だ。
物語のタイトルになっている主人公ニャウルが登場するまでには何十ページもついやされる。人物のあいだで確執が生じていく過程を、前もって明らかにしておかなくてはならないからだ。

そこでフルートゥルという男が前座をつとめる。「大柄の美男で力持ち、武芸にひいで、物事に動じず、抜け目なく、敵に対しては容赦しなかった。何か事があると頼りになる」といったぐあいに、高い世評を得ている人物だ。当然、有力者の娘との結婚話が持ち上がる。だが、その直後、ノルウェーから使者がやってきて、かの地にとどまっていた兄が死んで、フルートゥルに財産を残したという。そこで彼は結婚を延期してもらって、ノルウェーに渡る。いささかご都合主義に思える展開だが、これも確執を積み上げていくのに必要なのだ。結果として、フルートゥルはノルウェーで自分の後の人生の不運を拾うことになる。

ノルウェーに着いてすぐ、ハラルド灰衣王の母親で魔性といわれていたグンヒルドに目をつけられ、彼女の寝間に招き入れられて2週間を過ごす。この試験期間は先代の后には満足のいくものだった。おかげでフルートゥルは国王の臣下に列せられ、寵を得る。(次回に続く)

0 件のコメント:

コメントを投稿