単なる気象の現象でしかない。雨が降るにしても、風が吹くにしても、日がさすにしても。
とはいえ、雨、風、日差しを生身の自分が体感してみれば、その時その時の感情が呼びさまされる。
その日は朝から雨風ともひどかった。自宅北側の窓ガラスに音をたてて打ちつけてくる。その日は朝から、この国にとって重要な儀式の準備が東京の一画でおこなわれていた。つい、最近ひどい台風が2度も襲来したことに思いをいたしてしまう。
単なる気象の現象でしかないものの、重要な儀式の初日でもあり、この天気では雰囲気も盛り上がらないだろうし、当事者たちには気の毒だ。--わたし自身の認識はその程度だったはず。ともかく北側の窓を打ち鳴らす雨風にうんざりしていた。
そこはさえぎるものもない地上100メートルに位置し、視界の北端からは強風がおやみなく黒雲を送り出し、世界を吹き降りで塗り込めている。
そんななか昼食をとっていると、あたりに明るさが感じられて目を上げた。東に面したベランダに出て空を見渡すと、視界の北端で山なみが見えかかっている。日光三山のある位置からすると少し東に寄ったあたりで黒雲がとれていく。みるみるうちに雲は強風に吹き払われていった。
天気が回復してくれるのはありがたい。今や雲が切れ切れに吹き散らされていく。北の上空には水色の輝きさえ見え始めた。
風の仕事ぶりは手早く確実だった。南の方角に雲を追い立ててしまうと、そこには昼過ぎの時刻の太陽があった。日差しの向かう先の湿った大気中に虹が出現した。これとて単なる気象の現象でしかないのだが。
具体的に言うなら、低い弧を描く薄色の虹が長く伸びていた。虹の左端は〈東京スカイツリー〉の根元から昇っている。
具体的に言うなら、低い弧を描く薄色の虹が長く伸びていた。虹の左端は〈東京スカイツリー〉の根元から昇っている。
10月22日午後1時過ぎ (c)イタロ |
10月22日午後1時過ぎ(c)イタロ |
風に吹き払われた雲はちぎれて流れるまま形を変えていく。その形を何かに見立てずにはいられない、人の心は。
10月22日午後1時過ぎ(c)イタロ |
「日本が神の国だってことを一瞬だけ信じられるね!」わたしは家人に向かって言った。
それはひと月前、10月22日のこと、皇居で〈即位礼正殿の儀〉がおこなわれているとおぼしい時刻、わたしが体験した気象の現象である。自分自身のささやかな心象も付け足してみた。
あの日、皇居で主要な儀式が始まったまさにその時その場に日がさしてきて、東京上空に虹がかかるのが見えたことは、ネットやメディアでさまざまに報じられた。
でも、それが山越えする乾いた強風のなせるわざであることを指摘する人がいないのは残念至極だ。
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