クラリネットが軽快な音を揺らしながら、空間いっぱいに自在に線を描いていく。ヴァイオリンがそこに寄り添いつつ空間を支配し、自分の音色をきらめく光や霧雨に変えて降らせていく。アコーディオンはあくまでどっしり構え、和音とメロディで重厚な色や形を加えていく。舞い踊る楽器たちがてんでに駆けださないよう、ドラムスが手綱を引いて句読点をつける。
そうやってクレズマー音楽を、楽団を目の前にしてじっくり聴くのは初めての体験だった。
そうやってクレズマー音楽を、楽団を目の前にしてじっくり聴くのは初めての体験だった。
11月17日、東欧ユダヤの伝承音楽の演奏グループ〈オルケステル・ドレイデル〉のレクチャー・コンサートが両国のシアターX(カイ)で開催された。グループを主催する樋上千寿(ひのうえちとし)氏は、自身、クラリネット奏者であり、関西を拠点にクレズマー音楽の伝道師として活動を続けている。
哀調をおびた東欧ユダヤのメロディは、日本でもずいぶん昔から親しまれてきたように思う。イスラエル民謡の『マイムマイム』、アメリカのフォーク歌手ジョーン・バエズの歌う『ドナドナ』、あるいはミュージカル/映画の『屋根の上のバイオリン弾き』のサウンドトラックなど、くりかえし流れてくるメロディによってイメージが作られた。でも、それらはクレズマー音楽のほんの一部が商品化されて流通したものにすぎない。
樋上氏は幼少の頃からいろんな楽器を弾きこなしてきたらしいが、じつは専門は美術史で、京都造形芸術大学で教えている。
そもそもクレズマー音楽の世界に入り込むことになったのも、「シャガールの絵に描かれている楽師はどんな音楽を演奏しているのだろう?」と疑問に思ったことがきっかけだったという。
そもそもクレズマー音楽の世界に入り込むことになったのも、「シャガールの絵に描かれている楽師はどんな音楽を演奏しているのだろう?」と疑問に思ったことがきっかけだったという。
それにしても、みずから演奏し、毎年ドイツのワイマールで開催されるクレズマー音楽のセミナーに参加し、楽団を結成し、レクチャー・コンサートなどの活動を続けているのは、よほど突き動かされるものがあってのことだろう。
今回のテーマは、シャガールも生まれ育った、今や消滅してしまった東欧ユダヤ人コミュニティに由来する音楽。
樋上氏がワイマールで教わっている先生たち--ピアノ、アコーディオン奏者のアメリカ人Alan Bern氏、ロシア人ヴァイオリニストのMark Kovnatskiy氏を招いてのコンサートだった。
どれをとっても不思議になつかしい。ユダヤ系でなくとも郷愁をそそられる。
「クレズマー音楽には3つの欠かせない要素がある。それは歌うこと、踊ること、物語ること」だという。
樋上氏がワイマールで教わっている先生たち--ピアノ、アコーディオン奏者のアメリカ人Alan Bern氏、ロシア人ヴァイオリニストのMark Kovnatskiy氏を招いてのコンサートだった。
どれをとっても不思議になつかしい。ユダヤ系でなくとも郷愁をそそられる。
「クレズマー音楽には3つの欠かせない要素がある。それは歌うこと、踊ること、物語ること」だという。
メロディで歌い、リズムで踊るのはわかる。でも、どうやって音楽が物語るのだろう?
音楽には統合する力がある、ということなら、わたしも体験から納得できる。一瞬にして、ひとつの図柄にして見せてくれるのだ。それが「物語ること」なのだろうか?
音楽には統合する力がある、ということなら、わたしも体験から納得できる。一瞬にして、ひとつの図柄にして見せてくれるのだ。それが「物語ること」なのだろうか?
コンサートの半ばでコヴナツキー氏が、「今朝、私の恩師の訃報を知らされたところです。いろんな思いが胸中をめぐるなか、これから弾く曲を師に捧げたいと思います」と前置いて、アラン・バーン氏の作った曲を演奏した。(今なお刻々作られるからこそ、伝統が生きているといえる)。
それは慟哭であり、自身の記憶であり、それ以前の恩師の人生の記憶でもあった。図柄にはできない。音楽によってのみ物語ることのできる何かだった。
それは慟哭であり、自身の記憶であり、それ以前の恩師の人生の記憶でもあった。図柄にはできない。音楽によってのみ物語ることのできる何かだった。
今回のコンサートが開催されたシアターΧ(カイ)は、何とも独特の雰囲気を漂わせる演劇ホールだ。タイムスリップして日本の演劇史のなかに入り込んだような古めかしい別世界が、わが家から自転車で行けるところにあったとは驚きだ。
有名な回向院えこういんの境内、寺院に隣接して立てられた商業ビルの1階にある。
宗派を問わず、人間のみならず、あらゆる生き物、無縁仏を供養するという無縁寺回向院。その隣で、消滅の悲哀をたたえたクレズマー音楽のコンサートがおこなわれるのも何かの奇縁だろう。有名な回向院えこういんの境内、寺院に隣接して立てられた商業ビルの1階にある。
中央が樋上千寿氏、その左にアラン・バーン氏とマーク・コヴナツキー氏が |
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