前回は音楽の話をしながら、固有名詞ひとつ出さないままだった。カタカナであれ、漢字であれ、固有名詞で埋まった文章は情報をつたえるためなら許せるが、文章として読むのはつらい。せっかくネットを使っているのだから、YouTubeなどの音源を引用すれば、下手な文章より音をじかにつたえられるのではないか。
このところ耳に快く聴いてきた演奏会の一部を紹介すると--
アンサンブル・ジャック・モデルヌ (声楽アンサンブル)
『ルネサンスの自然~ロワール川のほとりで』
16世紀フランドルとフランスの作曲家、オケゲム、ジャヌカン、セルトン、ムートンなどのミサ曲とシャンソンのなかから、特に自然をめぐる題材のものが取りあげられ、声のポリフォニーによって展開される。複数の異なるメロディーが異なるリズムでもって絡まり合い、アラベスク模様を織りなしていく。
パオロ・アンジェリ
サルデーニャ島出身のギタリスト、シンガーソングライター。バリトン・ギターにチェロの機能を持たせた自作のエレキ楽器でオリジナル曲を演奏。ちょっと見にはアクロバット芸人だ。弦が縦向きについているのは当然ながら、そこに横向きに、さらに中空にまで、素材の異なる弦が張り渡され、いろんな音を出すべく工夫の産物の小道具を付け加え、両手両足と弓を駆使して、ギター・チェロの怪物を弾きこなす。マグレブと南欧の入りまじった濃厚な地中海音楽。アンジェリ本人は、機嫌のいい子供のように快活そのもので、あの怪物楽器をさらに進化させていきそうで心配になる。
ジャンニ・イオリオ(バンドネオン)とパスクァーレ・スタファノ(ピアノ)のデュオ
『Concerto Nocturno』
イタリア人のバンドネオンの名手とジャズ・ピアニストの組み合わせ。刀剣の名人ふたりの立ち回りを見ているような、緊張感あふれる舞台となった。アストル・ピアソラを始めとするアルゼンチン・タンゴを聴いていると、夜の空間にきらめく閃光が躍り出るさまが見えてくる。張りつめた音を鋭く刺していくバンドネオンの奏法がそう思わせるのか。その緊張を弛めるようにピアノの流麗な即興が差しはさまれるのが快い。
中央区交響楽団 第22回定期演奏会
サンサーンス『アルジェリア組曲』 エドワード・エルガー『チェロ協奏曲 ホ短調』 伊福部昭『シンフォニア・タプカーラ』
メンバーの参加費で成り立っている楽団のようだが、選曲からしてじつに野心的。
ソリスト、辻本玲氏の「エルガーのチェロ協奏曲」には完全に圧倒された。濃密にうねる音色がホールいっぱいに満ちわたるかのようだった。YouTubeで聴けるピエール・フルニエの演奏が、あの場の印象を多少なりとも再現してくれているように思う。
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