複雑な家族ドラマのワンシーンが切り取られて、そこにあった。それは傍目にもドラマと映り、前後の場面まで想像をふくらませられそうだった。
季節は春。午後もだいぶ過ぎた頃。わたしはいつも利用するスポーツ施設を出て、小学校正門に隣接する駐輪場へと向かっていた。ちょうど高学年の下校時間だったらしく、ランドセル姿の生徒たちがてんでに道路のほうに流れ出ていく。
「Hello!」と呼びかける声が聞こえて、わたしは振り返ることになった。
声をかけられたのは、生徒の流れのなか、ひとりで歩いている女の子だった。細身ながら背丈は大人に近い。その姿にランドセルは気の毒なくらい似合わない。無理やり背中にくくりつけているように見えてしまう。
季節は春。午後もだいぶ過ぎた頃。わたしはいつも利用するスポーツ施設を出て、小学校正門に隣接する駐輪場へと向かっていた。ちょうど高学年の下校時間だったらしく、ランドセル姿の生徒たちがてんでに道路のほうに流れ出ていく。
「Hello!」と呼びかける声が聞こえて、わたしは振り返ることになった。
声をかけられたのは、生徒の流れのなか、ひとりで歩いている女の子だった。細身ながら背丈は大人に近い。その姿にランドセルは気の毒なくらい似合わない。無理やり背中にくくりつけているように見えてしまう。
声の主は白人の女性で、少女のほうへ歩み寄り、親しげに手をとった。髪はブルネット、年は30台くらいだろう。白いTシャツに黒いスパッツという地味な服装が、贅肉をことさら目立たせていた。
少女は立ち止まって女性にうなずき返したが、目をそらし、表情は固いまま。それからすぐまた同じ歩調で進んでいく。そのあとを女がうつむき加減で続いた。歓迎されなかった自分を自覚している。白シャツの背中が敗北と諦めの表情をくすぶらせていた。
二人は目の前の道路を渡って、そのまま大通りへ向かう歩道を進んでいった。そこで少女はようやく歓迎すべき人を見つけた。どうやら父親のようだ。すぐさまその腕をとって、しなやかな全身を寄り添わせ、さかんに言葉をかけていた。傍目にも父と娘の親密なひとときに見えた。
で、白人の女性はというと、父娘のすぐ後ろを、今や完全にうつむいて、遠目にも贅肉のはみ出たシルエットのまま、とぼとぼ歩いていくだけだった。
そこまで目で追ったところで、場面はフェードアウトした。
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